動脈硬化病変からマクロファージだけを回収するには? Accuva CellectによるLCMと遺伝子発現解析

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動脈硬化の研究では、血管組織に存在する特定の細胞が、病気の進行にどのように関与しているかを調べることが重要です。

しかし、血管組織にはさまざまな細胞が混在しているため、組織全体を解析しても、目的の細胞だけの遺伝子発現を正確に評価することは容易ではありません。

今回は、米国LAXCO社が公開しているアプリケーションノート「Laser Capture Microdissection (LCM) for the Analysis of Macrophage Gene Expression from Atherosclerotic Lesions」をもとに、レーザーマイクロダイセクション(LCM)によって動脈硬化病変からマクロファージを選択的に回収し、遺伝子発現を解析した事例をご紹介します。

動脈硬化研究でマクロファージが重要な理由

動脈硬化は、血管壁に脂質や炎症細胞などが蓄積し、血管の構造や機能が変化する疾患です。

その進行に関与する細胞の一つが、マクロファージです。

マクロファージは、脂質を取り込むことで「泡沫細胞(Foam Cell)」と呼ばれる状態になることがあります。泡沫細胞は動脈硬化病変の形成や進行に重要な役割を果たしています。

一方、動脈硬化病変には、マクロファージ以外にも血管平滑筋細胞、血管内皮細胞、リンパ球、線維芽細胞などが存在しています。

そのため、病変全体からRNAを抽出した場合、複数の細胞に由来する遺伝子発現情報が混在してしまいます。

マクロファージに特有の遺伝子発現を調べるには、病変の中から目的細胞を選択的に回収することが重要です。

レーザーマイクロダイセクション(LCM)とは?

レーザーマイクロダイセクション(Laser Capture Microdissection:LCM)は、顕微鏡で組織切片を観察しながら、目的の細胞や組織領域を選択的に回収する技術です。

例えば、動脈硬化病変の中からマクロファージが存在する領域だけを回収し、RNAを抽出して遺伝子発現を調べることができます。

組織全体を使用する解析と比べ、目的外の細胞に由来する成分の混入を減らせることが特徴です。

実験概要:動脈硬化モデルマウスからマクロファージを回収

今回のアプリケーションノートでは、動脈硬化モデルとしてApoE欠損マウスを使用しています。

実験は次の流れで実施されています。

1. 動脈硬化病変を含む組織の採取

ApoE欠損マウスから心臓および大動脈を採取し、凍結包埋した後、厚さ6 µmの組織切片を作製しました。

2. CD68免疫染色によるマクロファージの同定

マクロファージのマーカーであるCD68(Macrosialin)を免疫組織化学染色によって検出しました。

これにより、病変内でマクロファージが存在する領域を顕微鏡下で識別できるようにしました。

3. LCMによる目的細胞の回収

CD68陽性で、泡沫細胞に特徴的な形態を示す領域を選択し、LCMによって回収しました。

実験では、各マウスについて大動脈近位部の組織切片30枚を使用しています。

4. RNAの抽出

回収した細胞から、PicoPure RNA Isolation Kitを使用してRNAを抽出しました。

5. RT-qPCRによる遺伝子発現解析

抽出したRNAを用いて、マクロファージ関連遺伝子や炎症関連遺伝子の発現をリアルタイム定量RT-PCRで測定しました。

実験結果①:少量の細胞からRNAを回収

LCMで回収したマクロファージ由来試料から、マウス1匹あたり平均3.52 ± 0.18 ngの総RNAが得られました。

回収したRNAについては、28Sおよび18SリボソームRNAに対応するピークが確認され、良好な品質が示されました。

また、RT-qPCRでは、測定した遺伝子について良好な再現性が確認されています。

この結果は、組織内の特定細胞をLCMで回収し、少量のRNAから遺伝子発現解析を実施できることを示しています。

実験結果②:マクロファージ由来RNAの選択的な濃縮

回収した試料がマクロファージに由来することを確認するため、細胞特異的な遺伝子マーカーを解析しました。

その結果、マクロファージマーカーであるCD68のmRNA発現は、組織切片全体から抽出したRNAと比較して、LCM回収試料で顕著に高くなっていました。

一方、血管平滑筋細胞に関連するα-actinの増幅は、LCM回収試料では検出されませんでした。

これらの結果は、マクロファージが選択的に回収され、他の細胞由来のRNAの混入が抑えられていたことを支持しています。

実験結果③:炎症刺激による遺伝子発現変化を検出

さらに、この研究では、LPSによる炎症刺激がマクロファージの遺伝子発現に与える影響を調べています。

対照群とLPS刺激群を比較した結果、以下の発現増加が報告されました。

遺伝子 LPS刺激による発現増加倍率
VCAM 約11.9倍
ICAM 約32.5倍
MCP-1 約31.0倍

VCAMやICAMは細胞接着に、MCP-1は単球の遊走などに関与する分子です。

この結果から、動脈硬化病変内のマクロファージを選択的に回収することで、炎症刺激に伴う遺伝子発現変化を評価できることが示されました。

RNA解析では免疫染色条件が重要

このアプリケーションノートで特に注目したいのが、免疫染色とRNA品質の両立です。

通常の免疫組織化学染色では、水溶液中での長時間処理によってRNAが分解する可能性があります。

そこで、この研究では短時間の免疫染色プロトコルを採用し、RNase阻害剤を利用するなど、RNA分解を抑える工夫が行われています。

このように、LCMを用いた遺伝子発現解析では、装置による細胞回収だけでなく、組織の保存、染色、回収、RNA抽出までの工程を適切に設計することが重要です。

Accuva Cellectによる研究への応用

米国LAXCO社のAccuva Cellectは、IRレーザーとUVレーザーを搭載したレーザーマイクロダイセクションシステムです。

IRレーザーによる目的細胞の捕捉と、UVレーザーによる組織領域の切断を使い分けることで、さまざまな細胞・組織の選択的回収を支援します。

今回紹介した研究のように、免疫染色によって目的細胞を同定し、その細胞からRNAを回収するワークフローは、動脈硬化研究以外にも応用が考えられます。

例えば、以下のような研究分野です。

・動脈硬化・循環器疾患研究

・マクロファージ・免疫細胞研究

・炎症性疾患研究

・がん微小環境研究

・病理組織の領域別遺伝子発現解析

なお、これらはLCM技術の応用が考えられる分野であり、すべての試料に対して同じ回収効率やRNA収量が得られることを保証するものではありません。

まとめ

今回のアプリケーションノートでは、動脈硬化病変からCD68陽性のマクロファージ泡沫細胞を選択的に回収し、RNA抽出とRT-qPCRによる遺伝子発現解析が実施されました。

特に重要なのは、組織全体の解析ではなく、病変内の目的細胞に注目した分子解析が可能になることです。

Accuva Cellectは、こうした組織内の特定細胞や領域を回収するためのLCMシステムとして、病理学、循環器研究、炎症研究などの幅広い研究分野で活用が期待されます。

株式会社インミディアムでは、Accuva Cellectの製品仕様、研究用途、新規導入、既存LCM装置からの更新についてご相談を承っています。

製品名:Accuva Cellect
製造元:LAXCO, Inc.(米国)
日本国内取扱い:株式会社インミディアム

https://www.inmediam.com

参考資料

LAXCO, Inc.
Laser Capture Microdissection (LCM) for the Analysis of Macrophage Gene Expression from Atherosclerotic Lesions.
Application Note #1. © 2024 LAXCO Inc.

※本記事はメーカー公開のアプリケーションノートをもとに作成しています。掲載した実験結果は当該研究条件におけるものであり、すべての試料や実験条件で同等の結果を保証するものではありません。

※Accuva Cellectは研究用機器です。