がん組織や脳組織など、さまざまな細胞が混在する組織を解析する際、「特定の細胞だけを取り出して調べたい」と考えたことはないでしょうか。
組織全体からRNAやDNAを抽出すると、目的とする細胞以外の情報も含まれるため、特定の細胞集団に由来する分子情報を捉えることが難しい場合があります。
このような課題に対応する技術が、**レーザーマイクロダイセクション(Laser Capture Microdissection:LCM)**です。
今回は、LCMの基本原理と研究への応用、そして米国LAXCO社のレーザーマイクロダイセクション装置「Accuva Cellect」の特徴をご紹介します。
1. レーザーマイクロダイセクション(LCM)とは?
レーザーマイクロダイセクションは、顕微鏡で観察した組織や細胞試料から、目的の細胞または微小領域をレーザーを利用して選択的に分離・回収する技術です。
例えば、がん組織には、がん細胞だけでなく、線維芽細胞、免疫細胞、血管内皮細胞など、さまざまな細胞が存在します。
組織全体をまとめて解析すると、これらの細胞の情報が混在します。
一方、LCMを利用すれば、組織内の特定領域を選択的に回収し、目的の細胞集団に着目した解析を進めることができます。
回収した試料は、RNA解析、DNA解析、次世代シーケンシング(NGS)、プロテオミクスなどに利用できます。
2. Accuva Cellectの特徴:IRとUV、2種類のレーザーを搭載
Accuva Cellectは、米国LAXCO社が提供するLCMシステムです。
最大の特徴は、赤外線(IR)レーザーによる細胞回収と、紫外線(UV)レーザーによる組織切断を1台で行えることです。
IRレーザーによる穏やかな細胞回収
Accuva CellectのIRレーザーは、波長808nmの近赤外線レーザーです。
専用のCapSure LCMキャップに設けられたフィルムがレーザーエネルギーを吸収し、目的細胞に接着することで細胞を回収します。
レーザーエネルギーを細胞に直接集中させるのではなく、フィルムを介して回収するため、試料へのダメージを抑えることを目指した方式です。
特に、単一細胞や少数細胞の回収に適しています。
UVレーザーによる高精度な組織切断
UVレーザーには、波長355nmの固体レーザーを採用しています。
目的とする組織領域を精密に切断できるため、密度の高い組織や複雑な形状の領域を分離する用途に適しています。
また、多数の細胞を効率的に回収する場合にも活用できます。
Accuva Cellectでは、これら2種類のレーザーを研究目的や試料の状態に応じて使い分けることができます。
3. FFPE組織から培養細胞まで、幅広い試料に対応
Accuva Cellectは、さまざまな試料調製方法に対応しています。
代表的な試料として、新鮮凍結組織、FFPE(ホルマリン固定パラフィン包埋)組織、H&E染色標本、蛍光染色標本、未染色切片、細胞培養試料などが挙げられます。
さらに、通常のガラススライド、ガラス膜スライド、フレーム付きメンブレンスライドなど、複数の試料支持体を使用できます。
特に、一般的なガラススライドも使用できることは、研究用途や試料調製方法の選択肢を広げる特徴の一つです。
ただし、使用するレーザー方式や回収方法によって適切なスライドの種類は異なるため、実際の試験条件に応じた選択が必要です。
4. Accuva Cellectの主な研究用途
がん研究・病理学
がん組織には、多様な細胞が混在しています。
LCMを使用して特定のがん細胞集団や組織領域を回収することで、遺伝子変異や遺伝子発現などを、目的の領域に着目して解析できます。
LAXCO社のパンフレットでは、肺がん組織を用いた研究例として、組織全体を採取した場合には検出できなかった変異アレルを、LCMによって検出した事例が紹介されています。
神経科学
脳組織には、多様な神経細胞やグリア細胞が存在します。
Accuva Cellectは、特定の神経細胞や蛍光標識された細胞の選択的な回収に利用できます。
メーカー資料には、GFPを発現する神経細胞を回収した例が掲載されています。
プロテオミクス
LCMによって回収した特定の細胞集団や組織領域を、質量分析によるタンパク質解析に利用することも可能です。
例えば、病変部と正常部など、異なる組織領域に着目したタンパク質解析への応用が考えられます。
植物研究・法医学
Accuva Cellectは、医学・生命科学以外の研究分野にも対応しています。
メーカー資料では、植物組織の一部の回収や、混合試料からの精子細胞の選択的な回収が紹介されています。
5. 操作性と画像解析機能
Accuva Cellectは、専用ソフトウェアを使用して、顕微鏡観察から細胞回収までの操作を行います。
基本的な操作は、次の5ステップです。
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Setup: 試料のセットと実験情報の入力
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Inspect: 顕微鏡による目的細胞の観察
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Select: 回収する細胞や領域の指定
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Microdissect: レーザーによる切断・回収
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QC: 回収した細胞の確認と記録
また、AutoScanソフトウェアでは、ユーザーが設定した条件に基づいて、画像内の細胞や領域を自動認識できます。
染色標本、蛍光標本、免疫組織化学(IHC)標本などの解析に利用でき、特にコントラストの明瞭な試料で効果的とされています。
6. LCMと次世代の分子解析
近年、組織内の細胞集団ごとの違いを調べることは、がん研究や病理学、神経科学などにおいて重要な研究課題となっています。
LCMは、顕微鏡で確認した組織領域を選択的に回収できるため、形態学的な情報と分子解析を結び付けるための試料調製技術として活用できます。
Accuva Cellectで回収した試料は、RNA-seq、DNA解析、qPCR、質量分析などの下流解析に利用できます。
ただし、得られる解析結果は、回収細胞数、試料の保存状態、核酸・タンパク質の品質、解析手法などに左右されます。実際の研究では、目的に応じた試料調製と分析条件の検討が重要です。
7. まとめ
レーザーマイクロダイセクションは、組織や細胞集団の中から目的とする細胞・領域を選択的に回収する技術です。
LAXCO社のAccuva Cellectは、IRレーザーとUVレーザーを組み合わせることで、単一細胞の回収から組織領域の精密切断まで、多様な研究用途に対応します。
FFPE組織、凍結組織、培養細胞などを対象とした研究や、RNA・DNA・タンパク質解析のための試料調製をご検討されている研究者の皆様にとって、有用な選択肢の一つです。
株式会社インミディアムでは、LAXCO社のAccuva Cellectを取り扱っております。
装置の仕様、お見積り、研究用途への適合性など、お気軽にお問い合わせください。
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